170万部突破大ヒット漫画「君たちはどう生きるか」 2018.2.25
10万部でベストセラーといわれる目安をはるかにしのぐ大ヒットです。一種の社会現象に なっているこの作品が伝えるメッセージとは一体何なのか?紐解いてみたいと思います。
眼鏡をかけた主人公のまっすぐな眼差しが印象的な少年漫画風の表紙に哲学書のようなタイトル、 発売当初から話題となり書店には平積みされていたけど自分はターゲットではない、関係ないのではないかと素通りしてきた人も多いのではないでしょうか。
コピーライターの糸井重里さんが絶賛したことや映画監督の宮崎駿さんが同名の映画の構想を発表したこと、 100万部を超えた頃にはテレビ番組でも取り上げられたことからブームは加速し、当初の購買層である原作を若い頃に読んだ50~70代のみならず、 最近は10~20代、子供をもつ親世代、学校現場へと広がっています。
この作品は、父親を亡くして母親と2人で暮らす15歳の中学生「コペル君」がノートや手紙で叔父である「おじさん」との交流によって成長していく物語です。 いじめや貧困、裏切りなど、学校で起きる様々な出来事にどう向き合うのか悩むコペル君に、寄り添う存在の「おじさん」が時に厳しく、時に優しく導いていきます。
学校で起きる出来事を中心に物語が展開していくので「コペル君」に共感するというより「おじさん」と同じように少年を導くことができるのか、 どう生きるかについて自分はきちんと語れるのかを問われている気持ちになります。特に印象的だったのは下の2つです。
◎天動説と地動説を用いて説明している「ものの見方」
「自分たちの地球が宇宙の中心だという考えにかじりついていた間、人類には宇宙の本当のことがわからなかったと同様に、 自分ばかりを中心にして、物事を判断してゆくと、世の中の本当のことも、ついに知ることができないでしょう。大きな真理は、そういう人の目には、決してうつらないのだ。」
子供のうちは自分を中心に世界が構成されていくが、大人になると次第に世の中から自分を俯瞰してみることができるようになるものなのに、 人間はつい自分中心に考えてしまう、そんな現実を天動説と地動説を用いて客観的にわかりやすく伝えていることに目から鱗が落ちる思いでした。
◎「人間の悩み」について
「心に感じる苦しみやつらさは人間が人間として正常な状態にいないことから生じて、そのことを僕たちに知らせてくれるものだ。 そして僕たちは、その苦痛のおかげで、人間が本来どういうものであるべきかということを、しっかりと心に捕えることができる」
「人間である以上、誰だって自分の才能をのばし、その才能に応じて働いてゆけるのが本当なのに、そうでない場合はあるから、人間はそれを苦しいと感じ、やりきれなく思うのだ」
人間が苦しみやつらさを感じることの中から人間のあるべき姿を知るという、ぱっと聞くと逆説的にも聞こえそうですが 「ピンチはチャンス」とも言われるように、苦しみやつらさの根源に立ち向かったときにその人の人生との向き合い方が見えてくるのかもしれないと考えさせられました。
原作は昭和12年に、児童文学者の吉野源三郎(1899~1981年)が刊行しました。 当時の日本は、軍国主義を強めていった時代。日本が戦争へと突き進み、社会に閉塞(へいそく)感が強まった時期でした。 その閉塞感は先行き不透明な現代と重なり、自らの考えで行動する生き方を問う本として時代を超えて共感をよんでいるのかもしれません。 真実をうつす素晴らしい書籍は時代も世代も超えて皆の心を動かし受け継がれていくのですね。あなたらしい「生き方」に対する答えがみつかるかもしれません。ぜひ手に取ってみてください。
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